2024年10月に開催した「第2回ビジクル会」でビジクルを活用していただいている金融機関のビジクル活用事例の講演がありました。「モノ売り営業から課題解決型営業へ!~ビジクルを起点とした取引先DX支援の取り組み~」と題して常陽銀行営業企画部法人営業企画グループ(DX支援)主任調査役の髙田悠馬氏にビジクル活用事例を紹介していただきました。
常陽銀行がビジクルの導入を決定したのは、ビジネステック社さまと出会って、課題解決軸から解決手段を考える仕組みに感銘を受けたためです。取引先へのDX支援体制を構築するにあたり、ビジクルを起点とした取組みが有効と考え、2021年10月より本格利用を開始しました。
取引先や地域へのDX支援・協業において、地方銀行の役割は蓄積したスキルや構築したネットワークを活用し、地域DX促進に向けての伴走支援の役割を担うことだと考えています。短期的には地域企業が抱える課題に適切なソリューションを提供する、中長期的にはDX支援を通じ、地域企業の持続的成長・価値創造を後押しし、地域が元気になることで当行も共に成長していく姿を描いています。
当行のDX支援体制は、コンサルティング営業部リサーチ&コンサルティンググループのIT支援チーム(ITコンサルティング)、営業企画部法人営業企画グループDX支援チーム(ビジクル利用促進等企画全般)、関連会社である常陽コンピューターサービス株式会社ITソリューショングループ(エリア制によるソリューション営業)の3部署で構成し、相互に連携して取り組んでいます。
営業企画部では主にビジクル運営を含むIT・デジタル化に関わる各種情報発信、ITツールの拡充など、IT・デジタル化スモールスタート領域のセグメントを中心に支援しています。ビジクルを経由した成約案件は売上規模が2億円から10億円ほどの企業が多い状況です。
コンサルティング営業部が担当するITコンサルティング領域では、業務の現状分析や課題の抽出、システム化方針、業務フローの変更、運用定着、効果検証などについて、個社別に支援を行っています。
DX推進上の課題とビジクル導入の狙いとしては主に3つあります。
1つ目は、「○○はいかがですか?」といった課題・ニーズ軸を考慮しない「モノ売り営業」からの脱却です。現場の行員は日々、様々なミッションを抱えており、習得できるITツールはどうしても限られてしまいます。ビジクル導入によって、診断や事例検索などからレコメンドされたITツールをピンポイントで習得していくことで、営業店が現場で自立して課題軸から提案までを行える体制を構築していく狙いがあります。
2つ目は、営業店が取引先の「DX」のニーズに接した際、企業の情報を収集・整理し、本部トスアップの精度を向上させることです。診断などを組み合わせると課題軸からITツールや提案書が出力されます。提案資料の顧客反応などからもヒアリングの要点を整理できますので、本部においても事前情報から提案の組み立てがしやすくなります。
3つ目は、「ITに対するアレルギー」の解消です。これまでの取組実績をみると、DX推進の担い手は若手が中心で、中堅以上の行員にはやや苦手意識がある傾向にあります。これだと、重要な取引先への総合提案が行き届かない可能性があります。誰もが普段使いする「ビジクル」を法人営業のプラットフォームとして成長・発展させていくことで、法人営業の総合力を高めていきたいと考えています。
常陽銀行営業企画部法人営業企画グループ(DX支援)主任調査役の髙田悠馬氏
実際にビジクルを本格稼働させ、本部業務の効率化やクラウド上でのデータの蓄積を通じて、当初想定していなかった4つのメリットがありました。
1つ目は、本部人員の業務効率化で得た余力を営業推進に向けられたことです。活動結果がデータベース化されることで本部業務が軽減され、顧客向けDXセミナーの定期開催やビジクル内の商品情報の充実など、その他の注力すべき事項に人的資源を集中させることができました。
2つ目は、同意書取得と案件管理の効率化です。同意書調印後のPDFデータの受領と仕分け、案件入力作業がすべてクラウド上で管理できるようになったため、ペーパーレス化と商談案件のデータ管理が実現しました。
3つ目は、ITツールの効率的な拡充です。地方銀行単独では首都圏等の有益なITベンダーを見つけるにも限度がある、また、契約書のリーガルチェック等を1社1社と行うと時間と手間が掛かる、などが課題でしたが、ビジクルを通じて当行単独ではなかなか接することができないITベンダーのツールを効率的に拡充することができました。
4つ目は、DX人材の提案実績・素質の可視化です。アクセスログや活用履歴などから、各行員のDX取組状況の基礎データを確認できるため、DX推進の統括的な役割を担う人材の登用のほか、日々の活動を可視化し、営業店に活動状況のデータ還元ができるようになりました。
ビジクル利用定着に向けて最初に着手したのは、行内ポータルサイトに各部署がバラバラに掲載していた法人向け推進資料を最大限ビジクルに一元管理し、モバイルPC一つで、ワンストップ提案ができる体制としました。そのため、銀行や関連会社のサービス、ビジネスマッチング締結先のツールなどを用途ごとにタグ付けして整理しています。
また、サービスやツールごとにショート動画の掲載や最新チラシへの更新を常に意識しています。ITツールを身近に感じてもらうため、「DX通信」(行内掲示板)を定期配信し、ITツールや各種法改正の勉強会動画、業種別アプローチ方法、ビジクル診断結果から得られた営業切り口などをこれまでに100回以上配信しました。この他にもビジクル定着に向けて、ビジクル利活用方法の社内通達や動画の配信などを行ってきました。
ビジクル診断を通じた効果としては、主に2つあります。
1つ目は、データ還元による顧客のニーズ喚起です。ビジクル診断の回答データはそのまま活用できる「営業の資産」です。個別設問項目から顧客課題の切り口となる解決手法を明示していくことができます。
2つ目は、提案されるITツールのバリエーションが拡大したことです。ビジクルを導入した2021年下期はITツールの成約が8ツールにとどまりましたが、直近では半期60ツール近くと成約の幅が広がりました。この結果からも、課題軸からの提案が徐々に定着してきたといえ、モノ売り営業からの脱却の一歩につながったと考えています。
当行では、ビジクル導入と同時期の2021年10月に取引先DX推進スキルを認定する「DXアドバイザー制度」(行内資格制度)を、新たな人材育成の枠組みとして構築しました。
2024年9月末現在、IT・デジタル化コンサルティング営業(課題の整理から提案書作成まで)を単独で実践でき、推進リーダーとしてエリア・ブロック内の行員への指導・推進サポートができる「DXシニアアドバイザー」が10名、IT・デジタル化ニーズや顧客の業務課題に対して、外部パートナーとの協業を含めた適切なコンサルティングプランの提示ができる「DXアドバイザー」が167名、顧客のIT・デジタル化ニーズや課題を正しく聴取し、課題解決に向けて有効な情報を選別し、ビジネスマッチング先や外部パートナーの紹介・取り次ぎができる「DXサポーター」が2,125名います。
ビジクルを法人営業の基礎に、「DXサポーター」からのステップに位置づけ、新入行員や2年目の研修に課題軸から解決手段を導き出す事例演習などを取り入れ、「モノ売り営業」からの脱却および課題解決スキルの向上を図る研修に整備しました。ITで実現できることを体感し、ビジクルを起点に解決手法を導き出す営業の「楽しさ」を知ってもらいたいと考えています。
※本稿は、2024年10月4日に開催された「第2回ビジクル会」のビジクル活用事例「モノ売り営業から課題解決型営業へ!~ビジクルを起点とした取引先DX支援の取り組み~」の講演を再構成したものです。