4カ月で昨比4倍超。常陽銀行に聞く
取次数がアップするDX提案のコツ。

茨城県水戸市に本店を構え、県内外に支店を持つ地方銀行「株式会社常陽銀行」は、昨年10月にビジクルを導入し、今年4月から本格稼働。7月末までの4カ月で、DX案件の取次を460件以上まとめています。昨年同期間の取次件数は100件だったといいますから、伸び率は驚異的です。
いったいどのようにDX商材を顧客へ提案し、成約へと結びつけているのでしょうか。
常陽銀行でDX支援の仕組みづくりを行っている髙田悠馬さんと、同行が取り組む「DXアドバイザー制度」で、アドバイザー第1号に認定された、営業担当の野口泰之さんに話を聞きました。

常陽銀行 営業企画部 法人営業企画グループ DX支援チーム 主任調査役
髙田悠馬さん

常陽銀行 研究学園都市支店 営業一課 係長
野口泰之さん

独自の資格制度や顧客向けセミナーで、「DX気運」をアップ

髙田悠馬(以下、髙田)さん:

お客様のニーズを的確に捉え、最適なDX提案を行なえる人材を育成しようと、当行では2021年10月から「DXアドバイザー制度」をスタートさせました。これは、独自にDXサポーター、DXアドバイザー、DXシニアアドバイザーの3段階の資格を設け、ビジクルを活用したDX提案や成約の実績、研修への参加などを経て行員のスキルを判断し、認定する仕組みです。

そのほかにも「DX通信」と題して、DX商材やテーマ別に基礎情報などを紹介する情報発信を定期的に行うなどして、行員のスキルアップや知見蓄積のサポートに取り組んでいます。
また、DX商材のベンダーや財務省の担当者などを招いたお客様向けのオンラインセミナーを実施するなど、地域の中小企業のDX気運を高める活動を積極的に行っています。

セミナーを実施するにあたって気を付けているのは、経営者に自分事として捉えていただくための工夫をすること。講師には必ず、中小企業のDX成功事例をまじえた話をするよう依頼しています。
「うちと同じような会社で、こんなことができているんだ」と、DX化に興味を持つきっかけを少しでも提供できればと考えています。

「得たいが知れない」から「便利そう」へとマインドチェンジ

野口泰之(以下、野口)さん:

私は普段、中小企業や個人事業主のお客様を担当し、ご融資やDX支援を含むお客様の課題解決に向けた各種サポートを行っています。実感として、若い経営者や自社の課題を理解している経営者などは、クラウド会計システムなどのSaaS商品に関心を持っていたり、すでに導入していたりとDXの動きが見て取れますが、多くの企業においてSaaS商品もDXも「得体の知れない怖いもの」というイメージをお持ちのようです。

そのような企業でもニーズが高いのが「会計システム」と「勤怠管理システム」。社員一人ひとりのタイムカードを社長自らエクセルに手入力している、紙の給与明細を社員に手渡しているといった企業はまだまだ多く、「会計システムを導入すれば、勤怠管理や給与計算、収支会計が連動しているので楽になりますよ」とご提案します。

勤怠管理システムに関しては安価な商材がたくさんありますから、コスト面でのハードルが下がり、「それぐらいでできるなら、やってみようかな」とデジタル化のスタートアップとして取り組んでいただきやすいですね。

会社の規模はもちろんですが、社長がITに強いのか、そうでないのかによっても、提案する商材を変えています。前者であれば会計システムを、後者であればまずは勤怠管理システムからご提案して、まずはデジタル化に慣れていただくところから始めます。

野口さんのDX提案事例

<case1>
・事業者/保育園を3つ経営する企業
・課題/タブレットで保育士の出勤登録を管理してはいるものの、本社機能を持つ園で、それ以外の2つの園へ保育士が出勤したかどうかを確認する方法がなかった。
・提案/3園すべての出退勤の状況がわかる勤怠管理システムを提案。
・成果/保育士のプライベートのスマホから休暇の申請ができる、有給休暇の取得状況などがグラフ化される、有給休暇の取得率に応じてアラートが出るなど、勤怠管理以外の便利な機能にも満足いただけた。
<case2>
・事業者/製造業
・課題/入退勤の管理をタイムカードで、給与明細や源泉徴収票の発行を紙ベースで実施。さらに、社長自らがハローワークへ行き、雇用保険の申請を行っていた。
・提案/人事労務システムを提案。
・成果/当初「人事労務システム? 何それ?」とおっしゃっていた社長だが、給与明細や源泉徴収票の電子化、ハローワークへの電子申請などができるようになり、負担が軽減した。

避けては通れない
「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」を切り口に

野口さん:

「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」は、DX提案の切り口にしやすいトピックスです。「将来的に、請求書はこのように管理しなければいけません。準備はお済みですか?」といった会話を糸口に、対応できるDX商材をお勧めするという流れです。

髙田さん:

当行がDX支援に力を入れることになったきっかけが、「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」です。例えば、電帳法においては、請求書、契約書、納品書などの企業間取引を電子取引データで受け取った場合、印刷・保管することが廃止され、電子保存が義務化されました。これからは7年間保存しなければならない電子取引データを整理し、必要な時にすぐに取り出せるようにするため、クラウド上での保存が一つの選択肢となります。
今までデジタル化に取り組んでこなかった企業も一様に向き合わなくてはいけない法改正ですから、顧客に対して適切な提案ができるよう、行員一丸となって法制度と関連するDX商材についての学びを深めています。

実際、企業側の関心も非常に高く、「電子帳簿保存法」と「インボイス制度」をテーマにしたオンラインセミナーには、一度で940名もの参加がありました。不安を抱えている中小企業が多いことを実感しています。
同テーマに限らず、セミナー後には必ず参加企業にアンケートを実施して、今抱えている業務課題などをヒアリング。それを持って、営業担当者が提案にうかがうフローも確立しています。

「データの可視化」は、ビジネスの未来を見つめる指針となる

野口さん:

私がお客様のもとへうかがって提案をする際に気を付けているのは、決して「DXに取り組みませんか?」というアプローチをしないこと。DXと聞いただけでも拒否反応を示す社長も少なくありませんから、あくまで雑談ベースでさりげなく業務上の課題等をヒアリングします。

「当行のインターネットバンキングを使って給与の振り込みをされていますが、税理士さんとのやり取りはどのようにされていますか?」「勤怠管理や給与計算はどのようにしていますか?」と尋ねると、たいていは「こんなふうにしているよ」とお答えいただけます。
それを踏まえて非効率な事務作業が多いと感じたら、「こういうシステムがすごく便利なんですよ」とお話すると関心を持っていただけ、自然とDX商材を使った課題解決のお手伝いにつながっていくのです。

私自身、ビジクルを使うまではDX商材のことをほとんど知りませんでした。でも、いろいろな商材を見ていくうちに、「こんなこともできるのか」と新鮮な驚きがあり、興味を抱くようになりました。
システムの無料トライアルに申し込んで使い方を学ぶのも楽しいですし、「やらなくては」という義務感よりもおもしろさが勝っていることが、成果につながっているのかもしれません。

DX商材の良さは、リアルタイムで収支や利益、既存の顧客などをデータとして可視化できること。これから先、会社はどうなっていくべきか、生き残るにはどうするべきかを考えるには、今の状況を知らなければいけません。
とはいえ、中小企業の社長の多くは日々忙しく、今日の売上を把握していないケースも多い。そのような意味で、簡単に現状をデータ化できるDX商材は、会社や事業の未来を考えるための大切な指針になり得るのです。
これからもそう信じて、より良い提案をしていくつもりです。

株式会社常陽銀行

設立1935年。従業員数3,213人。国内に185店(本支店153、出張所32)、海外に4駐在員事務所(上海、シンガポール、ニューヨーク、ハノイ)を構える。本店は茨城県水戸市。経営理念は「健全、協創、地域と共に」。